2017年7月号<メンタルヘルス不調者対応>

コンプライアンスやリスクマネジメントや生産性の観点から、従業員のメンタルヘルスケアは欠かせません。

しかし、メンタルヘルス不調の要因は、長時間労働・重責・ミス・職場の人間関係上のトラブルといった「業務上の心理的負荷」ばかりではありません。家族に起こった出来事・金銭関係・プライベートの人間関係上のトラブルといった「業務外の心理的負荷」も要因となりえます。さらに、本人の体力・抵抗力・既往歴や、価値観・生活史・家庭環境や、パーソナリティや、遺伝といった「個体の特性」も要因となりえます。そのため、どれだけ企業がケアしたとしても、メンタルヘルス不調者を抱える可能性は消えません。

もしも、従業員がメンタルヘルス不調に陥った場合、企業はどう対応すべきなのでしょうか。本号では、「メンタルヘルス不調者対応」を特集しています。



解説編

1 メンタルヘルス不調者への仕事本位の対応

 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 医師・医学博士 高尾総司)

●企業の原理・原則と整合性のとれたメンタル対応が必要
●メンタル不調の社員への配慮のために、その他大勢のメンタル不調のない社員に不利益を生じさせてはならない
●上司の主な役割は適正な業務指導
●人事の主な役割はルールに則った対応
●家族の主な役割は本人のサポート
●医師の主な役割は病気の診断・治療、療養の勧め


2 就業規則におけるメンタルヘルス不調者対策
 (社会保険労務士事務所トリプルウィン 代表 樋野昌法)

●メンタル不調者対応の基本的方向性は「休職して治療に専念してもらい、完全復帰できなければ退職してもらうこと」
●メンタル不調者の症状が発症したときから休職・復職(退職)までの流れを事前に決めておくことが重要
●就業規則に定めておくべき内容…欠勤の申請、休職期間、休職事由の証明、休職期間中の賃金・社会保険料の取り扱い、復職、休職期間満了後の退職、解雇


3 メンタルヘルスをめぐる法的問題
 (井上克樹法律事務所 弁護士 井上克樹)

●採用時に精神疾患の既往歴を尋ねてもいいですか?
●試用期間中にうつ病にり患した社員を解雇できますか?
●復職可能と医師が診断しても、会社の判断で拒否できますか?
●診断に従って業務を軽減した場合、賃金を減額できますか?



事例編

メンタルヘルス不調の事例

●パニック障害
●躁病
●不安性(回避性)パーソナリティ障害
●脅迫現象(ネット依存)・不安障害および非24時間型睡眠障害
●初老期の認知症



資料編

メンタルヘルス不調に関する実態
●メンタルヘルス不調により休業した労働者は0.4%
●メンタルヘルス不調により退職した労働者は0.2%
メンタルヘルス不調者が生まれる主な要因は「職場の人間関係」「本人の性格」「上司との相性」など
メンタルヘルス不調者が周囲に与える負の影響は「所属部署の他の従業員の業務負担やストレスの増加」
精神障害の労災件数
自殺者数の推移



判例編
1 就労可否の判断に必要な資料の提出を拒否した病気休職者の解雇
2 就労可能な状態に回復していた者に対する休職期間満了による退職扱い


連載編

賃金の諸相(明治学院大学 名誉教授 笹島芳雄)
第10回 働き方改革と賃金(2)